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神戸地方裁判所姫路支部 昭和58年(ワ)340号 判決

主文

一  原告の本訴請求をいずれも棄却する。

二  原告は被告洋士に対し、金一九五万五七一六円及びこれに対する昭和五八年七月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告洋士のその余の請求を棄却する。

四  原告は被告高寛に対し、金三六七万五九八二円及びこれに対する昭和五八年七月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告高寛のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は本訴反訴を通じ原告の負担とする。

七  この判決は、第二項及び第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴請求について)

一  請求の趣旨

1 原告には被告らに対し、別紙に記載の交通事故による損害賠償債務の存在しないことを確認する。

2 被告らは原告に対し、各自金三〇万円及びこれに対する昭和五八年一〇月六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

4 第二項につき、仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告らいずれも)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告洋士の反訴請求について)

一  請求の趣旨

1 原告は被告洋士に対し、金二七〇万九一七四円及び内金二四五万九一七四円に対する昭和五八年七月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 第一項につき、仮執行宣言。

(被告高寛の反訴請求について)

一  請求の趣旨

1 原告は被告高寛に対し、四四五万〇一七九円及び内金四一〇万〇一七九円に対する昭和五八年七月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 第一項につき、仮執行宣言。

第二当事者の主張

(本訴請求について)

一  請求原因

1 被告らは原告に対し、別紙のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)による損害賠償請求権を有していると主張している。

2 被告らは、共謀のうえ、本件事故を奇貨として原告から金員を喝取しようと企て、車両のバンパーの破損は金五万円を超える損害とは言えないにもかかわらず、原告に対し弁償として新車を購入せよと執拗に繰り返しその結果原告から金三五万円を交付せしめて不法にこれを喝取した。

よつて、原告は、本件事故が全く軽微なものであることから本件事故による損害賠償債務の存在しないことの確認を求めるとともに、被告らに対し各自右不法行為による損害賠償金三〇万円及びこれに対する本訴訴状送達の日の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告らいずれも)

1 請求原因1は認める。

2 同2のうち、被告らが原告から車両破損の損害金として金三五万円の交付を受けたことは認めるが、その余は否認する。

三  抗弁

(被告洋士)

1  本件事故が発生した。

2  原告は、本件事故当時、原告車両を自己のため運行の用に供していたものである。

3  被告洋士は、本件事故により頚部及び腰部挫傷の傷害を負い、次の各損害を受けた。

(一) 治療費 金一四万四五五〇円

昭和五八年八月三日から同年一一月一五日まで永野外科医院での通院加療費。

(二) 休業損害 金九一万一一六六円

被告洋士は、本件事故当時、増田組こと増田輝雄方で、とび職人として勤務し、日額平均金八九三三円の収入を得ていたものであるが、本件事故による受傷のため昭和五八年八月三日から症状固定の同年一一月一五日までの間計一〇二日の休業を余儀なくされた。

(三) 慰藉料 金五〇万円

被告洋士は、事故により頸部及び腰部の挫傷を受け、頚部痛、腰痛、右中環小指のしびれ等の諸症状に悩まされながら、一〇二日間にわたり通院加療を余儀なくされ、この間、肉体的、精神的に大きな苦痛を受けたもので、右事情からして症状固定時までの慰藉料額は金五〇万円を下らない。

(四) 後遺障害による損害 金九〇万三四五八円

(1) 逸失利益 三〇万三四五八円

被告洋士は、前記のとおり永野外科医院にて通院加療を続け、昭和五八年一一月二五日症状固定の診断を受けたが、頸部痛、腰痛のほか頸部後屈運動制限、握力低下の後遺障害が残つている。同被告は、とび職として稼働しており、仕事柄、高所での肉体労働が多く、右後遺障害の内容、程度からして労働能力喪失率は五パーセント、喪失期間は二年間を下らない。

そこで、ホフマン方式により日額金八九三三円を基礎として逸失利益を算定すると、次のとおり金三〇万三四五八円となる。

8933円×365×0.05×1.8614=303458

(2) 後遺障害による慰藉料 金六〇万円

被告洋士は、右(1)記載の後遺障害に現在も悩まされており、また、将来にわたり肉体的、精神的な苦痛を余儀なくされ、これを敢えて金銭に換算するならば、その慰藉料額は金六〇万円は下らない。

右後遺障害による損害額は、(1)(2)の合計額九〇万三四五八円となる。

(五) 弁護士費用 金二五万円

被告洋士は、本件訴訟の追行を代理人に委任し、弁護士報酬として頭書記載金額を一審判決言渡後支払うことを約した。

(被告高寛)

1  本件事故が発生した。

2  原告は、本件事故当時、原告車両を自己のため運行の用に供していたものである。

3  被告高寛は、本件事故により、頸部挫傷の傷害を負い、次の各損害を受けた。

(一) 治療費 金七九万九六三〇円

昭和五八年七月一一日から昭和五九年一月三〇日まで永野外科医院での通院加療費。

(二) 休業損害 一三五万九九三六円

被告高寛は、事故当時、姫路市中央卸売市場内の喫茶「銀座」において喫茶店のバーテンとして勤務し、日額平均金七〇八三円の収入を得ていたものである。

しかるに、事故による受傷のため昭和五八年七月一一日から昭和五九年一月一八日まで計一九二日間、入院加療のため休業を余儀なくされた。右休業による損害は、金一三五万九九三六円となる。

(三) 慰藉料 一七〇万円

被告高寛は、事故により頸部挫傷を受け、項部痛、右小環指のシビレ、頸椎後屈運動制限等の諸症状に悩まされながら、昭和五八年七月一一日から通院加療するも症状が増悪化し、同年一一月五日から同五九年一月一八日まで入院、以後通院加療をなし、同年一月二五日に症状固定の診断を受けたもので、この間、肉体的、精神的に大きな苦痛を受けたもので、右事情からして症状固定定時までの慰藉料額は金一〇〇万円を下らない。

また、同被告は、後記の後遺障害に悩まされているもので、これによる肉体的、精神的苦痛を敢えて金銭に換算するならば、その額は金七〇万円を下らない。

(四) 逸失利益 金二四万〇六一三円

被告高寛は、前記のとおり昭和五九年一月二五日症状固定の診断を受けたが、項部痛、右小環指のしびれ、頸椎後屈運動制限の後遺障害が残つている。右後遺障害の内容、程度及び反訴原告の職種からして、労働力喪失率は五パーセント、喪失期間は二年間を下らない。そこで、ホフマン方式により日額金七〇八三円を基礎として逸失利益を算定すると、次のとおり金二四万〇六一三円となる。

7083円×365×0.05×1.8614=240613円

(五) 弁護士費用 金三五万円

被告高寛は、本件訴訟の追行を代理人に委任し、弁護士報酬として頭書記載金額を一審判決言渡し後支払うことを約した。

四 抗弁に対する認否

(被告洋士の抗弁につき)

1及び2は認めるが、3のうち、同被告が本件事故により、頸部及び腰部挫傷の傷害を負つたことは否認し、その余は争う。

(被告高寛の抗弁につき)

1及び2は認めるが、3のうち、同被告が本件事故により、頸部挫傷の傷害を負つたことは否認し、その余は争う。

(被告洋士の反訴請求について)

一  請求原因

本訴請求における被告洋士の抗弁事実と同じ。

よつて、被告洋士は原告に対し、損害金二七〇万九一七四円及び内金二四五万九一七四円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五八年七月四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

本訴請求における被告洋士に関する抗弁に対する認否と同じ。

(被告高寛の反訴請求について)

一  請求原因

本訴請求における被告高寛の抗弁事実と同じ。

よつて、被告高寛は原告に対し、損害金四四五万〇一七九円及び内金四一〇万〇一七九円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五八年七月四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

本訴請求における被告高寛に関する抗弁に対する認否と同じ。

第三証拠

本件口頭弁論調書中書証目録及び証人等目録に記載のとおりである。

理由

一  本訴請求についての請求原因1は当事者間に争いがない。

二  本訴請求についての請求原因2は、これを認めるに足りる証拠はない。

三  本訴請求における被告洋士の抗弁について

1  本件事故が発生したこと、原告が本件事故当時原告車両を自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証、第三号証、第四号証、乙第五ないし第八号証、被告洋士本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる乙第一ないし第四号証、証人永野博章の証言、原告及び被告ら各本人尋問の結果によれば、被告洋士は本件事故により頸部及び腰部挫傷の傷害を負い左記の損害を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  治療費 金一四万四五五〇円

昭和五八年八月三日から同年一一月一五日までの間永野外科医院で実日数三五日の通院加療を受けた費用。

(二)  休業損害 金九一万一一六六円

被告洋士は、本件事故当時、とび職人として稼働し日額平均八九三三円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため昭和五八年八月三日から症状固定の同年一一月一五日まで計一〇二日間の休業を余儀なくされた。

(三)  通院加療期間の慰藉料

傷害の程度、実治療日数に照らすと金四〇万円が相当である。

(四)  被告洋士に後遺障害による労働能力の喪失があつたと認めるに足りる証拠はない。

(五)  後遺障害による慰藉料 金三〇万円

被告洋士に腰痛等の後遺障害があることは明らかであるが、これに対する慰藉料は金三〇万円が相当である。

(六)  弁護士費用として金二〇万円

3  なお、前掲証拠によれば、被告洋士には頚肋のあることが認められるが、一方、本件事故に至るまで同被告に頸部痛等の傷害はなかつたことが認められ、右事実によれば、頸肋のあることが同被告の右症状の原因となつているとは断じ難いので、損害の算定についてこの点を勘案することはしない。

四  本訴請求における被告高寛の抗弁について

1  本件事故が発生したこと、原告が本件事故当時原告車両を自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証、第五ないし第七号証、丙第一ないし第六号証、被告高寛本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる丙第七号証、証人永野博章の証言、原告、被告ら各本人尋問の結果によれば、被告高寛は本件事故により頸部挫傷の傷害を負い、左記の損害を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  治療費 金六九万三五四〇円

永野外科医院で昭和五八年七月一一日から同年一二月三一日までの間、通院三二日(同年七月一一日から同年一一月四日までの間)、入院五七日の加療を受けた費用。なお、昭和五九年一月一日から同月三〇日までの入通院については、入院中の外泊が多く賠償を求め得る損害には含まれないものとした。

(二)  休業損害 金一二三万二四四二円

被告高寛は、本件事故当時、喫茶店のバーテンとして稼働し日額平均七〇八三円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため昭和五八年七月一一日から同年一二月三一日まで計一七四日間の休業を余儀なくされた。

(三)  通院、入院加療期間の慰藉料

傷害の程度、実治療日数等に照らすと、金八〇万円が相当である。

(四)  被告高寛に後遺障害による労働能力の喪失があつたと認めるに足りる証拠はない。

(五)  後遺障害に対する慰藉料

被告高寛に頸椎後屈運動制限等の後遺障害があることは明らかであるが、これに対する慰藉料は金六〇万円が相当である。

(六)  弁護士費用として金三五万円

五  結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、被告洋士の反訴請求は原告に対し金一九五万五七一六円及びこれに対する昭和五八年七月四日から完済まで年五分の割合による金員を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告高寛の反訴請求は原告に対し金三六七万五九八二円及びこれに対する昭和五八年七月四日から完済まで年五分の割合による金員を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 能勢順男)

別紙 事故

一 日時

昭和五八年七月三日

二 場所

加古川市加古川町河原二〇九―一

三 態様

原告運転の普通乗用自動車が被告洋士運転、被告高寛助手席同乗の普通乗用自動車後部に追突。

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